Collaboration
Fairyさんとのコラボ作品。
冬咲秋桜の声になんと小説を付けてくれました。
これで、世界が少し広がりました。

ぱっと印象がいやな子も、本当の気持ちがいえないだけなんですね。
それでは、Fairyさん作の短編小説、ご覧くださいませ。

他にも沢山の小説や詩が有ります。
Fairyさん本家サイトは此方。
Fantasy Lovers

※激しくフルブラウザ推奨です。
小さめでみると横スクロールが出ると思います…。

コラボ元のボイス

Story
素直になれない 作:Fairy

「日直? なによ、それ? そんな面倒なものを私がやるわけないでしょう」


高校2年生になり、幼馴染み同士の結城慎也(ゆうきしんや)と美咲花月(みさきかげつ)は腐れ縁とも言うべき存在になっていた。
…いや、慎也は幼い頃からずっと花月のパシリをさせられていると言った方が正確だろうか。
今日も例によって日直を押し付けられている。
「たまには自分でやったらどうなんだい?」
眼鏡を押し上げ、やや呆れた口調で慎也は言った。
彼はいつも押し付けれてばかりいるので、文句の1つや2つぐらい言いたかったのかもしれない。
しかし、それが逆に花月の機嫌を損ねる結果となってしまう。
「大体、なんで私がチョークの粉まみれにならないといけないのかしら?
そんなに言うなら慎也が代わりにやって下されば良いでしょう?」
慎也は溜め息を吐いた。
「はぁ…分かったよ。やればいいんでしょう。あぁ…僕がどうしてこんな事をしなくちゃいけないんだか」
彼は再び大きく溜め息を吐くと、数式がたくさん書かれた黒板に向かって歩き出した。
それを見ながら花月は自分の席に着いた。すると隣から友人の風見真央(かざみまお)が話し掛けてくる。
「ま〜た花月は結城君の事を尻に敷いてるのねー」
「そ、そんなものではないわ」
「そうなの? でも、彼って結構モテるらしいよ?」
そんな事は別にどうでもいい、と言わんばかりの顔をしながら花月は授業の用意を始めた。
(全く…素直じゃないんだから)
2人を代わる代わる見て、真央はそっと溜め息を吐いた。






授業が終わり、放課後。
何だかんだ言いながらも、慎也と花月は必ずと言っていい程一緒に帰る。
クラスメートはその様を目撃する度に野次を飛ばしたが、2人は少しも気にしていなかった。
何故なら2人はずっと幼馴染みであり、それ以上でもそれ以下でもなかったからである。
そして、花月は例によって慎也に自分の荷物を持たせていた。
慎也も慎也で多少の文句はあれど、決して放棄したりはしない。
端から見れば花月が慎也をこき使っているように見えるが、実はそうとも言い切れなかった。
何故なら小学校の頃、花月が重い荷物を持って帰ろうとして転んだのを見て以来、
「花月に任せておくと危なっかしくてしかたないよ…」と花月の荷物も慎也が持つようになったのである。
…いつからか、それ以上にパシリ的な扱いをされている慎也ではあったが。


そんな帰り道にふと花月が口を尖らせた。
「慎也のくせに生意気なのよ!」
「え? ど、どうしたの?」
突然の台詞に慎也は荷物を持ったままおどおどしている。
「その理由ぐらい自分で考えたらどうなのかしら?」
花月は更に捲し立てた。
流石にそれには慎也も堪えたようで、「もういいよ…わけ分かんない」の言葉と共に花月のカバンを彼女に押し付け、先に走って帰ろうとした。
「ちょ、ちょっと待って…きゃっ!」
後ろで派手な音がしたのを聞いて慎也が振り返ると、花月が小さな段差、
それも普通の人が足元を掬われたりしないようなものにつまずいていた。
「だ、大丈夫!?」
「………」
花月は俯いたまま答えない。
「あーあ、泥だらけになっちゃって…膝を擦り剥いているじゃないか。…立てる?」
無論、彼女は首を横に振った。
「仕方がないなー、僕が送って行くよ」
「当たり前でしょう! だ、誰のせいだと思ってるのよ!?」
そっぽを向きながら花月が言い返す。心無しか顔が少し赤い。
「あーはいはい。ほら」
背中越しに差し出された慎也の手。どうやらおんぶをするつもりらしい。
普段の花月なら何か一言ぐらい言いそうだったが、この時ばかりは素直に彼に従った。
「お、重くないの…?」
「僕だって…一応、男だよ?」
少しばかり狼狽する花月に慎也はさらりと答えた。




「はい、花月のカバン」
「あ、ありがと…」
自分と花月の荷物と彼女自身を背負いながらの帰り道はどう考えても辛かっただろう。
しかし、慎也は一切不平を言わなかった。
「すぐに傷の手当をするんだよ?」
「わ、分かっているわよ…それぐらい」
心無しかいつものような覇気が無い事に慎也は気付き、それが照れ隠しだと彼は分かっていた。
彼女が家のドアを開け、その姿を見送ってから帰ろうとしたその時。
後ろを向いたまま彼女は言った。
「し、慎也はね! ずっと私の傍にいればいいのよ!!」
「はいはい…」
バタンッと閉まるドアを見届けながら、慎也は苦笑いをした。
しかし、それは決して嫌な気分ではなかった───。 

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